【見直しの高倍率ズーム 】Sony FE 24-240mm F3.5-6.3 雨模様の高幡不動
2018年 09月 04日
僕は写真は結果が全てだと思っているので、撮影機材に関しては「所有する喜び」だとか、「撮る過程の精神性」みたいなものにはこだわらない。もちろん、「所有する喜び」や「撮る過程の精神性」はよく分かる。それを楽しみたいという心もあるし、シリアスな写真撮影を離れた所ではカメラオタクな部分もある。ただ、なんというか、例えばライカM3やニコンFのモノとしての素晴らしさ、道具としての優秀性は理解しつつも、それが「写真」という結果に結びつかない場合には、どんなに素晴らしいカメラやレンズであっても使用機材の選択肢には入らない。古臭い「銀塩 VS デジタル」という議論もどうでもいい。僕はどっちも撮るし、今はもっぱら白黒写真はフィルムで撮ってデジタル出力するハイブリッドな手法を取っているくらいだ。写真・カメラに限らず、何でも「〇〇は素晴らしい」「〇〇はダメだ」と一言でズバリと言えばキャッチーで分かりやすいのだろうが、真実は複雑で分かりにくいものなのだ。
ただ、唯一の例外が「高倍率ズーム」だった。「高倍率ズームはダメだ」と断言し続け、これまで一度も自分の金で買ったことがなかった。どこかから流れてきたり、家族が買ったものを試してはきたが、どれも満足できる画質ではなかったし、「あえて」を狙った味も感じられなかったからだ。
しかし、先日写真歴30年で初めてその禁を破った。この夏、僕はデジタル機材を長年続いたキャノン一眼レフとの併用からソニーフルサイズミラーレスに一本化したのだが、それに伴って小旅行やちょっとした外出用に高倍率ズームを追加した。その「FE 24-240mm F3.5-6.3 OSS(SEL24240)」の重厚でソリッドな作りは、従来の高倍率ズームの「安かろう悪かろう」感とは明らかに違った。人の作例を見ても、これまでの高倍率ズーム特有の軽さや雑さが目立たないように感じたので、購入に踏み切った。
今回は、この24-240で初めてまとまったショット数を撮影した。この日は東京の多摩地区で2、3時間空き時間があり、当初は郊外住宅地の街頭スナップを白黒フィルムと複数の単焦点レンズで撮ろうと予定していたのだが、雨模様となり急遽機材セットをデジタルの高倍率ズームに変更。京王線の高幡不動で途中下車して高幡不動そのものを軽く観光スナップすることにした。条件が悪い中で軽い観光スナップをするのに、高倍率ズームはうってつけだ。ただし、僕は欲張りなので、補助として小型軽量の明るい単焦点(FE55mm/1.8)を組み合わせた。ボディはα9。
例えば写真撮影がメインではない家族や友人との観光や散歩で、ガチャガチャとレンズ交換をするのは野暮だ。かといって画角に制約をかけたくない。そんな時に高倍率ズームはうってつけだ。今回の場合は、「雨時々曇り」というはっきりしない天気の中でレンズ交換をしたり、ボディを2台持ちをするのは嫌だった。高倍率ズームを選んだもう一点の理由は、高幡不動は全く初めてでどういう場所か想像がつかず、焦点距離を限定するのが難しかったからだ。
さて、本レンズで実写してのファースト・インプレッションは、一言「十分に使える画質」。これまでの高倍率ズームは、ピントが合っている部分の描写にも何とも言えないもやもやとした安っぽさがあったが、この24-240は、ピントが合った部分の描写には文句のつけようがない。そこだけ切り出して大口径ショートズームや単焦点の画像と並べても、僕ならどっちがどっちかにわかに当てられないと思う。
一方、ボケ味はやはり、単焦点やショートズームに比べればはっきりと落ちる。F値が暗く被写界深度が深いということを含めての話になるが、ボケ味はすっきりしない。ただ、うまく言葉で説明できないが、荒れているなりに頑張って真面目にまとめている感じがあって、決して単焦点のような透明感はないが、好感の持てるボケにはなっている。周辺光量不足と歪曲収差も比較的目立つが、そこは僕は味として歓迎してしまう方だし、どうしても気になる場合は補正する方法はいくらでもある。F値が暗いためにどうしても開放付近での撮影が多くなるが、それでも周辺部画質の印象は良好だと思う。
ボディ側の話になるが、もう一つ、今回初めて使ったのが、ISO AUTOだ。感度を自動化すれば撮影の幅が広がるだろうなあ、とは思いながらも、今だに「高感度=低画質」という古い感覚から抜け出せず、感度が上がりすぎるのを嫌ってオートは使って来なかった。でも、今回初めてデジタルで開放F値が変わる暗いズームを使ってみると、感度を細々と変えながら撮らないと扱いが難しいことに気づいた。さすがにそれをいちいちマニュアルでやるのは煩わしく、途中からオートにしてしまったというわけだ。暗い林の中でも撮ったが、自動的に設定された最高感度はISO6400。ボディの良さと手ぶれ補正の優秀さにも助けられ、こういう観光写真であれば十分な画質に収まったと思う。今後、明るい条件下であってもこのレンズを使う時はオートにした方が良いだろう。
僕は中古を安く手に入れたが、FE 24-240mm F3.5-6.3 OSSは、実売10万円前後の高価なレンズだ。高倍率ズームは一般的には入門用レンズという位置づけで、新品価格は2〜5万円台、型落ちの中古なら数千円から手に入る。つまり、この24-240は「高級高倍率ズーム」という新しいジャンルのレンズだと言っていいだろう。よく写って当たり前、大きくて重くて高いのは仕方がないという結論は乱暴すぎるか。
いくら「高級」だといっても、高倍率ズームの宿命として、大きくボカしたい時にはどうにもならない。そこを補うために今回は55mm1.8をサブで持っていった。実際の使い方は、24-240で撮ったが物足りず、55mmで絞りを開けて撮り直すという流れだった。被写界深度やボケのコントロールは絞りだけでなく焦点距離でも行うもので、その点では高倍率ズームは調整幅が逆に広いのだが、単にボケの量の問題でもない時がある。例えば、なんでもない光景から「空気感」を切り取りたい時などには、単焦点の繊細な描写に頼りたくなる。僕はたくさんレンズを持ち歩くタイプなのだが、これまでは画角をカバーすることばかり考えていた。F値でバリエーションをつけるために複数のレンズを持ち歩くのもアリだということも、今回学んだことの一つだ。
いくらいいレンズだとは言っても、せっかくのレンズ交換式カメラに高倍率ズームを「つけっぱなし」はもったいない。シーンや被写体による使い分けがとても大事だ。だから、高倍率ズームは初心者用どころか扱いがとても難しい玄人向けのレンズだという持論は今も変わらない。FE 24-240mm F3.5-6.3 OSSは、ベテランユーザーが分かっていて使う、「一周回って良いレンズ」だと僕は思う。