【Nagano Snapshot】 我ら草むら主義


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Minolta CLE Carl Zeiss Biogon 28mm f2.8 Ilford HP5 Plus

自分の写真のベースは、1980〜90年代の学生写真である。オヤジのカメラを学校に持って行って友人たちや通学路の街頭スナップを撮り、やがてたまには遠征して旅先でストリートフォトや風景を撮り、文化祭やなんかで発表する。つまりは、今にして思えばごく一般的なことをしていたわけだ。学校現場は時代の変化に対して鈍いので、今もそういうことをしている若い人は案外希少ではないのかもしれない。なにしろ、80年代末期の時点で既に写真部自体が廃れていて、僕が通っていた都立高校の写真部も僕らが再建したというくらいだったのだ。おそらく、ピークは、カメラが庶民の手に届くようにはなったが、『オートボーイ』から『写ルンです』の流れで誰にでも写真が撮れるようになる前の60〜70年代だったのだろう。

大学に進んでからは、写真部としての活動よりも個人や個人的なつながりで仲間たちと活動することが多くなっていった。それは、若さ故の過ちなのかもしれないが、自分としては既に銀塩写真というものが成熟期を過ぎてしまい、画壇ならぬ写壇の既得権益保護主義の臭いに辟易としてしまったからだ。当時の学生写真の世界にも、そういう末期的な症状が蔓延し始めていた。そして、案の定、作品そのものより撮った人のタレント性を重視しているような、そして作品も素人臭いほど良いという「ニセモノ」の時代に入っていく。今もその流れが汚物のようにこびり付いていて、今時フィルムで撮る若い人は、今だにハイキーでピンぼけな一昔前のオシャレ写真の呪縛から逃れられないように見える。インスタグラムなどを通じてのびのびと新しい表現を発揮する世界中の若い世代の作品を日常的に見るにつれ、日本の写真だけが永遠の低迷期にから抜け出せていないように思える。

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Leica M6TTL Elmar-M 50mm f2.8 Ilford HP5 Plus

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Minolta CLE Carl Zeiss Biogon 28mm f2.8 Ilford HP5 Plus

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Minolta CLE Carl Zeiss Biogon 28mm f2.8 Ilford HP5 Plus

そんなアナログ時代の末期にひっそりと、しかし確かな流れとしてあったのが「草むら系」の作品群である。当時若手として写真雑誌などに作品を取り上げられ始めていた少し先輩の作家さんや、同世代で力のある仲間の多くが、それまでストリート・フォトの主戦場だった東京を出て、少し郊外(あるいは沖縄や海外にも)の雑草生い茂る荒れ地に向かって行った。アンセル・アダムスのような高い芸術性のある風景写真を目指していたわけでも、ファッション性を求めていたわけでもない。内に秘めた生き方や目指す所には確信があったと思う。しかし、それと違う方向にどんどん進んでいく世の中に絶望し、心も体も彷徨っていたのだと思う。その象徴的な風景が、茫漠たる「草むら」だったのだ。

結局、国内では前述の「ハイキーでピンぼけ」な女性作家たちの作品、そして海外からのLomographyの流れにあっさりと飲み込まれてしまったが、僕の中には今も草むらが生い茂っている。

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Minolta CLE Carl Zeiss Biogon 28mm f2.8 Ilford HP5 Plus

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Leica M6TTL Elmar-M 50mm f2.8 Ilford HP5 Plus

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Minolta CLE Carl Zeiss Biogon 28mm f2.8 Ilford HP5 Plus

きれいに整備されていない草むらは、そんな僕らの心象風景であると同時に、キャッチーな分かりやすさへのアンチテーゼでもある。そして、ファッション性の否定である。さらには、「人に褒められたい」「有名になりたい」という作家というよりはタレント性にかかってくる自己承認欲求とは無縁である。そこに、自分の生き方に対する確信がある。だから、彷徨ってはいるが、草むら写真には、フレーミングや露出その他の表現に迷いがあってはいけないと僕は思っている。

しかし、(今にして思えば)そこに迷いがあった当時の僕は、実は「草むら写真」を自己表現の中心には置いていなかった。むしろ30代にかけて、人を絡めたブレッソン的なストリート・スナップへの傾倒を強めていった。

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Leica M6TTL Elmar-M 50mm f2.8 Ilford HP5 Plus

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Leica M6TTL Summaron 35mm f3.5 Ilford HP5 Plus

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Leica M6TTL Elmar-M 50mm f2.8 Ilford HP5 Plus

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Leica M6TTL Elmar-M 50mm f2.8 Ilford HP5 Plus

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Minolta CLE Carl Zeiss Biogon 28mm f2.8 Ilford HP5 Plus

とはいえ、人を絡めたストリート・スナップと草むら写真を完全に切り分けていたわけではない。例えば、東京の街で通行人を撮りながら道端の雑草にもレンズを向けるといった具合に、両者はクロスオーバーするものだ。しかし、やがて写真を仕事とし、そこに「分かりやすさ」が求められるようになると、草むら写真は真っ先に置いてけぼりにしなければならないものになってしまった。

それでも、仕事写真が一巡して再びごく私的な作品撮りに回帰してみると、僕はいつの間にかまた、「草むら」を撮っていた。そして、今度は以前よりもちゃんと撮れている気がする。当時できなかったことが今はできるという技術的な問題ももちろんあるが、整備された「畑」「公園」といった情景を含め、自分の「草むら」がどこにあるのか、はっきり分かってきたからであろう。どうやら、少々整備されているくらいが自分にはちょうど良いようだ。

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Minolta CLE Carl Zeiss Biogon 28mm f2.8 Ilford HP5 Plus

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Minolta CLE Carl Zeiss Biogon 28mm f2.8 Ilford HP5 Plus

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Leica M6TTL Summaron 35mm f3.5 Ilford HP5 Plus

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Leica M6TTL Minolta M-Rokkor 90mm F4 Ilford HP5 Plus

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Leica M6TTL Elmar-M 50mm f2.8 Ilford HP5 Plus

雑然茫漠としたものをカッチリと切り取っていく。もちろん、被写体やその時の気分によってその限りではないが、今の自分の草むら写真はそんな感じで進んでいくと楽しい。若いころはこのカッチリがやりきれていなかったし、カッチリとは逆のベクトルを意識して志向していた面もある。今よりもずっと写真の偶然性というものに傾倒していて、きちっと時間をかけてフレーミングすることを忌避していた嫌いがある。勢いや一瞬のカンで勢い良く撮る写真には力がある。だから、僕は当時の自分の写真を否定しない。しかし、勢いを殺さずにカッチリ撮ることもできるのだと、今は言いたい。

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Minolta CLE Carl Zeiss Biogon 28mm f2.8 Ilford HP5 Plus

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Minolta CLE Carl Zeiss Biogon 28mm f2.8 Ilford HP5 Plus

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Minolta CLE Carl Zeiss Biogon 28mm f2.8 Ilford HP5 Plus

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Minolta CLE Carl Zeiss Biogon 28mm f2.8 Ilford HP5 Plus

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Leica M6TTL Summaron 35mm f3.5 Ilford HP5 Plus

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Minolta CLE Carl Zeiss Biogon 28mm f2.8 Ilford HP5 Plus

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Leica M6TTL Minolta M-Rokkor 90mm F4 Ilford HP5 Plus

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Minolta CLE Carl Zeiss Biogon 28mm f2.8 Ilford HP5 Plus

草むらへの淡い苦手意識が消えたのは、今回のような山村とか郊外住宅地、地方都市といった草むら写真のロケ地となる「田舎」に、自分の精神が慣れてきたことも強く影響していると思う。要は田舎慣れしたのだ。これまではどうしてもアウェー感があって、浮足立ってしまっていたように思う。引っ越しの連続の人生で決して都会だけで育ってきたわけではないのだが、今の山暮らしという「田舎のさらに奥」にある住環境に落ち着くと、都会も田舎も良い意味で新鮮に感じ、変わらず写欲をそそるようになった。今も仲の良い学生時代の草むら写真の達人は、今にして思えば、自分の家の周りの郊外住宅地の草むら、つまりはホームグランドを撮っていただけのようにも思えるのだが、こうした土地に対する肌感覚は大切な要素だと思う。

妙なアウェー感は払拭すべきものだ。とはいえ、やはり暮らしたことのない土地というのは、いつまでも新鮮なものだ。今回も、神社の中の児童公園という僕が育ってきた環境には馴染みの薄い場所に出会った。こういう未知の場所に足を踏み入れると、決して大げさではなく、人外魔境か別の惑星の地表に足を踏み出したかというようなドキドキ感がある。灯台下暗しで、何もアマゾンやヒマラヤに行かなくてもまだまだ人外魔境はあるのだ。


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Minolta CLE Carl Zeiss Biogon 28mm f2.8 Ilford HP5 Plus

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Minolta CLE Carl Zeiss Biogon 28mm f2.8 Ilford HP5 Plus

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Leica M6TTL Minolta M-Rokkor 90mm F4 Ilford HP5 Plus

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Leica M6TTL Elmar-M 50mm f2.8 Ilford HP5 Plus

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Leica M6TTL Summaron 35mm f3.5 Ilford HP5 Plus

僕の街頭スナップのスタイルは、都会であろうが田舎であろうが大まかなスタート地点とゴール地点を決めて、2、3時間かけて直線的または周回的にウロウロするというものなのだが、そういうことを幾度と無く飽きることなく繰り返している中にも、「これは」と言える楽しかった回や作品に納得できた回、手応えを感じた回がある。今回もそういう回の一つで、出来上がった作品には結構手応えを感じている。撮っていた時はそうでもなかったが、画像処理を全て終えた段階で「あっ、俺も草むらが撮れるようになった」と自信を持てたのである。最初の草むら写真の挫折は、確か高2の文化祭で、前年の「人を絡めたスナップ」から草むら系に作風をシフトさせたことに対し、「去年の方が好感が持てた」と周囲に言われた時だろうか。しかし、若いころから懲りずに飽きずに断続的にでも続けてきて良かったと思う。

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Leica M6TTL Minolta M-Rokkor 90mm F4 Ilford HP5 Plus

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Leica M6TTL Summaron 35mm f3.5 Ilford HP5 Plus

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Leica M6TTL Elmar-M 50mm f2.8 Ilford HP5 Plus

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Leica M6TTL Summaron 35mm f3.5 Ilford HP5 Plus

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Leica M6TTL Summaron 35mm f3.5 Ilford HP5 Plus

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Minolta CLE Carl Zeiss Biogon 28mm f2.8 Ilford HP5 Plus

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Leica M6TTL Minolta M-Rokkor 90mm F4 Ilford HP5 Plus

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Minolta CLE Carl Zeiss Biogon 28mm f2.8 Ilford HP5 Plus

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Minolta CLE Carl Zeiss Biogon 28mm f2.8 Ilford HP5 Plus

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Minolta CLE Carl Zeiss Biogon 28mm f2.8 Ilford HP5 Plus

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Minolta CLE Carl Zeiss Biogon 28mm f2.8 Ilford HP5 Plus

そして今、僕のもう一つの大事なフィールド、「東京」にも思いを馳せる。東京でも草むらをうまく撮りたい。次は撮れるのではないか。実は、今これを書いている現在、数日前に終えた大井埠頭での撮影フィルムを現像したばかりだ。この段階で「手応え」はまだないのだが、果たしてどうなるか。結果が気になる。

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Minolta CLE Carl Zeiss Biogon 28mm f2.8 Ilford HP5 Plus

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Minolta CLE Carl Zeiss Biogon 28mm f2.8 Ilford HP5 Plus

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Minolta CLE Carl Zeiss Biogon 28mm f2.8 Ilford HP5 Plus

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Leica M6TTL Summaron 35mm f3.5 Ilford HP5 Plus

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Leica M6TTL Minolta M-Rokkor 90mm F4 Ilford HP5 Plus

          






by hoq2 | 2016-07-13 22:20 | 写真(Naganao snapshot) | Trackback | Comments(0)

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