【犬スポット訪問記・番外編】 <長野県南相木村・犬ころの滝> 聞かない方がいい事もある

※この記事は、ニュースサイト「THE PAGE」と「Yahooニュース」で連載した【犬スポット訪問記】の未掲載エピソードです。個人的に掲載するものですので、文責は全て私にあります。問い合わせ等は本ブログへお願い致します。


最初は自分の犬だけがかわいいと思う人も、やがてその犬種全般を愛するようになり、最後には犬に関係するものはなんでも好きになる。愛犬家にも色々あるが、これが僕の持論である。この「犬ならなんでも好き」な第三段階になると、「犬目」とか「犬帰りの淵」、あるいは「犬ころの滝」などという地名を地図やナビで見つけると、迷わず立ち寄ってしまう。何か犬に関係のある謂われがあるのだろうと思うと、実際にどんな場所か確かめたくなるのだ。

 少し検索するだけで「犬」がつく地名はいくつも出てくる。滝の名前などの固有名詞を含めれば全国に数えきれないほどあるようだ。その中から、出張や旅の途中でたまたま立ち寄った5つの「犬スポット」を紹介しよう。


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車で長野県の佐久市方面から八ヶ岳山麓の野辺山を通って蓼科の自宅に戻る途中、<犬ころの滝→>という看板を見つけた。新たな犬スポット発見もさることながら、微妙に意味の分からない「犬ころ」という名前にアンテナが鋭く反応。迷わず国道を外れて山奥へ続く県道を入っていった。

途中の案内板やgoogle mapであらためて調べると、犬ころの滝は『滝見の湯』という温泉施設の脇にあるようだ。目指す南相木村は長野県東部の群馬県・埼玉県・山梨県に突出した所にあり、なんと言えばいいのか、“国境地帯”のアクセスの悪い場所にある。「村」という存在も平成の大合併後の今ではなかなか貴重だ。全く初めて足を踏み入れる土地だけに、ワクワク感は高い。

途中、いくつか他の滝なんかもあって見どころが多そうだったのだが、この日はあまり時間がなかったので犬ころの滝に直行。助手席に乗っていたフレンチ・ブルドッグの『マメ』と記念撮影をして帰ってきた。そう、その時は“何も知らずに”嬉々として愛犬と滝をバックに写真を撮ったのである。

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犬ころの滝がある南相木村は、なかなか秘境感のある良質な山村である

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“何も知らずに”犬と一緒に「犬ころの滝」で記念撮影

僕が何とも言えない違和感を感じ始めたのは、滝の名称の表記が媒体によって微妙に違う事に気づいてからである。道路標識や観光案内板、そして村のHPが『犬ころの滝』だからこれが公式だと思う。しかし、「滝見の湯」の駐車場にある農産物直売所は『いぬコロ市場』、昼食をとったレストランでもらった「八ヶ岳・野辺山高原見どころマップ」(南牧村活性化委員会制作)には、『犬っころの滝』とある。

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(上)道路標識や南相木村のHPの表記は『犬ころの滝』(中)犬ころの滝がある温泉施設駐車場にある直売所は『いぬコロ市場』(下)観光マップの一つは『犬っころの滝』と表記

僕はこう解釈する。昔から伝わっている名前は「犬ころの滝」だが、おそらく「ころ」にはある漢字が当てはまる。しかし、それをそのまま書いてしまうと、現代の動物愛護感覚にそぐわない由来がはっきり分かってしまう。そのあたりをさらにぼかす意図で変化したのが、「犬」の愛称と取れる『いぬコロ』さらにその語感が強い『犬っころ』であろう。

捕鯨問題を見るまでもなく、特定の偏った思想の押し付けはやっかいである。いくら「昔の話だよ」「現代の都会人の基準を当てはめても意味がない」と説明しても、聞く耳を持たない人もいるかもしれない。そういう「面倒を避けたい」という意思が、ビシビシ伝わって来るのである。

約1ヶ月後に取材目的の2度目の訪問をした。「犬ころ」の由来を深く追求するのは恐らく村の一種の「和」を乱すことにつながる。まずは、それが正しいか確かめるために、絶対に本当の由来を知っているであろうある村の方にストレートに尋ねてみた。

「犬ころの滝って、どういう意味ですか?」
すると、その人は不自然なまでの満面の笑みを崩すことなく、こう答えた。
「昔このあたりは、犬ころという字名だったんです」
ひらがな混じりの字名?いやいや、やはり深追いは禁物なのだ。断固たる笑顔は、それ以上の追求を固く拒否していた。外部の者がやたらに聞かない方がいい事もあるのだ。

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断崖絶壁を幾筋もの流れが滑り落ちる「犬ころの滝」。世の中には聞かない方がいい事もある

僕は撮影のために滝壺の先の流れまでウェーダーをつけて入ったのだが、水質はそこそこといった所だった。逆にそれが、あまりに水がきれいすぎる「犬帰りの淵」(本連載第1回参照)に比べて「釣れそう」な渓流に思えた。実際、僕が撮影を終えてしばらくすると、釣り人がフライを投げているのが見えた(すいません、そこ、僕がさっき荒らしたんです・・・)。

実は、このあたりは有力な渓流釣りスポットで、犬ころの滝の少し下流のダム湖、立岩湖では『シナノユキマス』という“幻の魚”が釣れる。ポーランド原産の外来魚なのだが、日本では長野県を中心に少数の湖沼に放流されている。立岩湖には、漫画『釣りキチ三平』のシナノユキマスの看板も立っている。

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犬ころの滝の下流にある立岩湖。シナノユキマスが棲む小さなダム湖である

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シナノユキマスは釣りの対象にもなっている。湖畔に掲示されていた釣果

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立岩湖畔の『釣りキチ三平』のシナノユキマスのPR看板

立岩湖のさらに下流には、『おみかの滝』がある。「おみか」という美人の嫁が、姑にいびられた末に騙されて滝壺に落ちたという悲惨な物語が伝わる滝だ。滝を見るには徒歩で岩盤をくり抜いたようなトンネルを通り、その途中の展望スポットに行く必要がある。そこにひっそりと立つ祠が何ともオドロオドロしい。

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おみかの滝を見るには、このトンネルを通らなければならない。滝の恐ろしい逸話と相まって、一人で行くのはちょっと怖い

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おみかを供養する祠の先から、滝が見える

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おみかの滝。確かに「しなり」のある流れが女性的だ。「女の情念」のようなものを感じる

犬ころの滝の「聞いてはいけない」、そしてこの「おみかの滝」の伝説と、南相木渓谷はちょっとしたホラー感のある犬スポットである。でも、それは、今回はたまたまそういう部分に着目したからで、人里離れた豊かな渓谷全体は爽やかである。またゆっくり釣りにでも来てみたいと、心から思う。うーん、でもやっぱり、日本の山村を歩くと時折じっとりとした寒気を感じる。それをここで再確認したのも、また事実である。

【犬スポット訪問記】正式版

<Yahoo ニュース版=文字中心のレイアウトです>

犬スポット訪問記(1)「木曽・犬帰りの淵」犬は本当に帰ったか?

犬スポット訪問記(2)「甲州街道・犬目宿」義民の逸話と桃太郎伝説

犬スポット訪問記(3)「群馬県・犬塚峠」“イヌゾー”と日本酒と

犬スポット訪問記(4) 「愛知県犬山市」ベテランゆるキャラと桃太郎伝説

<THE PAGE版=写真中心のレイアウトです>

犬スポット訪問記(1)「木曽・犬帰りの淵」犬は本当に帰ったか?

犬スポット訪問記(2)「甲州街道・犬目宿」義民の逸話と桃太郎伝説

犬スポット訪問記(3)「群馬県・犬塚峠」“イヌゾー”と日本酒と

犬スポット訪問記(4) 「愛知県犬山市」ベテランゆるキャラと桃太郎伝説

by hoq2 | 2015-07-09 11:47 | 取材こぼれ話 | Trackback | Comments(0)

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