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【アドリブ旅行01】横浜から巡り巡って佐久平=part2

「アドリブ旅行」
往年の「こち亀」の名エピソード
から拝借したこのフレーズが気に入っている。目的地不明、先の見えない旅。子供の頃からそういうロードムービー的な体験に胸が踊る。地についた足を離し、移動を開始する。その瞬間、肉体と精神が正真正銘の浮草になる。そして、社会や生きることのしがらみから自由になったような錯覚に陥る。

レンタカーの回送という仕事をご存知だろうか。ここではあえて詳細な説明をしないが、次から次へと乗り捨てられたレンタカーと鈍行列車を乗り継ぎ、全国の<下道>と<在来線>をぐるぐる巡って僅かな報酬を得る仕事である。次の目的地は直前まで分からない。

その点だけを捉えれば、自分にとってはこれは究極の「アドリブ旅行」である。ここでは、回送員として「稼働」した日々のロードムービー的な断片にスポットを当て、後のための忘備録を兼ねて写真と文章で記録していきたい。



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前回の続き。初稼働・2泊3日の旅の序盤である。

横浜から巡り巡って佐久平 Part1
横浜から巡り巡って佐久平 Part3
横浜から巡り巡って佐久平 Part4

初任務は、横浜から館山に下道でハイエースを運ぶこと。ウイリアム・ギブスンの名作ニューロマンサーの舞台のイメージが強い「チバ・シティ」を越え、内房のさらに先、房総半島先端部には深夜の到着となった。

レンタカーの回送業務には、軽自動車から大型建機まで含まれるが、僕は2t車までしか請け負わない契約をしている。要は99%乗用車ということだ。普通免許で運転できる4tトラックやマイクロバスも請け負った方が稼ぎは上がる。しかし、日常を超えたことをすると必ず事故を起こす。僕はそう思うから、安全を優先した。なにしろ、事故ったらかえって損をする。場合によっては弁償のために仕事をし続けるという、負のスパイラルに陥る可能性もあるブラックな契約なのだ。

それが分かっていても応募者が後を絶たない。さほどに現代日本の労働環境はいびつなのである。

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初回送車はその契約の中では最も大型な部類に入るハイエースであった。僕はこれを「試されている」と判断した。真相は分からない。以前、VWT4を自分の足としていたから、このサイズのバンが不慣れというわけじゃない。でも、ここ5年ほどは小型車ばかり乗っていたので、「その手に乗るか」(何が?)と超安全運転で決して道が良いとは言えない162キロを走破した。冬の南房総を象徴する「かえって寒々しい椰子の木」が見えてきた時、僕は勝手に一人で「勝った」と、ハイエースのハンドルを握りしめニンマリしたのであった。

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この仕事の金の流れは、エンドユーザー(レンタカーを借りる客)→レンタカー会社→回送業者→請負ドライバーというふうに4段階になっている。当然、上流に行くほど「神」に近い。ただ、日本の神様は西洋の天使と悪魔のように善悪で二分されておらず、善悪を内包した八百万(やおろず)の神である。スサノオノミコトもヤマタノオロチを倒すまでは狼藉の限りを尽くす乱暴者であった。この業界の「神」も、崇められると同時に疎まれる存在である。

我々請負ドライバーに下される指令に「朝逃げ」というものがある。直前まで車内で仮眠を取り、営業所の開店前、最寄りの交通機関が動いている午前6時ごろに納車して立ち去ることを言う。無人の営業所への納車となるので、当然、誰にも会うことはない。「営業所の人とのやりとりという面倒を避けて逃げる」ーそういうニュアンスが込められているのだ。

この「朝逃げ」という用語は、単なるドライバーのスラングではなく、回送業者のマニュアルにも載っている正式な業界用語である。僕は「朝逃げ願います」という依頼がスマホの画面に現れるたびに、なんだかちょっと嬉しくなる。表面的には「神」に平身低頭しながら、「さっさと納車して逃げちまおうぜ」と心の中でチロッと舌を出しているような連帯感。「神」は「神」でそういう下々の本音を知っていながら見逃しているとしたら、結構素敵な関係である。実際、特に都市部の一部にはそういう「神」が存在することが、後になって分かってくる。

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「朝逃げ」なりで納車した後は、続けて同じ営業所で新たな車を引き取り次の営業所へ向かうパターンと、公共交通機関を使って別の営業所へ引取に向かうパターンがある。後者の方が多く、たいていは最寄り駅から鉄道で向かう。今回、次の引取先は成田空港。同じ千葉県内でも最南端の館山駅から北端に近い成田への移動である。特急は使えないので、 2時間以上は優にかかる。ここで「ほう、ゆっくりできますな」と楽しめないと、この仕事は無理だ。

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ちなみに、鉄道移動中は無償。車を運転している時にだけ、距離に応じた報酬が出る。稼働時間(拘束時間)の時給に換算したら300円とかの世界。ただし、時給ではないから違法ではない。これから何度も言うことになると思うが、僕のようないくつかの特殊事情を抱えていない限り、絶対にオススメしない。その事情については、追々語っていくこととしよう。なにしろ、ここまで書き連ねて、初稼働の2日目がまだ始まったばかりなのである。(次回に続く)


【今回使用機材】

  

by hoq2 | 2014-01-26 13:47 | 写真(アドリブ旅行) | Trackback | Comments(0)

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