【アドリブ旅行01】横浜から巡り巡って佐久平=part1<序章>

「アドリブ旅行」
往年の「こち亀」の名エピソード
から拝借したこのフレーズが気に入っている。目的地不明、先の見えない旅。子供の頃からそういうロードムービー的な体験に胸が踊る。地についた足を離し、移動を開始する。その瞬間、肉体と精神が正真正銘の浮草になる。そして、社会や生きることのしがらみから自由になったような錯覚に陥る。

レンタカーの回送という仕事をご存知だろうか。ここではあえて詳細な説明をしないが、次から次へと乗り捨てられたレンタカーと鈍行列車を乗り継ぎ、全国の<下道>と<在来線>をぐるぐる巡って僅かな報酬を得る仕事である。次の目的地は直前まで分からない。

その点だけを捉えれば、自分にとってはこれは究極の「アドリブ旅行」である。ここでは、回送員として「稼働」した日々のロードムービー的な断片にスポットを当て、後のための忘備録を兼ねて写真と文章で記録していきたい。



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横浜から巡り巡って佐久平 Part2
横浜から巡り巡って佐久平 Part3
横浜から巡り巡って佐久平 part4

先輩の回送に同乗する1回きりの実地研修を終え、その場ですぐに初任務である。「スマホの使い方がずば抜けて早い」(回送業務のあらゆる連絡は、スマホ・携帯で行う。「通話」ではなく「入力」がほとんどである)というお褒めの言葉をいただいたが、いきなり本番というのは、いかにも「教えることがシステム化されていない」日本らしい。

自分がこれまで正社員として勤務したり、請負、アルバイトで働いた先で仕事を教えるシステムがしっかりしていた所は皆無である。ただし、この会社は<その中では>研修的なことに力を割いていた方だったということは申し添えておきたい。いや、「エクスキューズに抜かりがない」と言っておけば察してもらえるだろうか。

日本の企業風土は、欧米型の「ヒラや下請けの自主性を重んじ、そのうえでその仕事の成果を公平に評価する」というものとは逆だ。時代が変わったとはいえ、いまだ上に言われた通りのことをする<下の者>が評価される傾向が強い(当然、総論的な話ではあるが)。

つまり、下請け、孫請けと下流に下るほど、<上>に言われたことに対して、それがどんなに理不尽な要求や命令であっても逆らうことはできない。仕事全体の質を上げるためのちょっとした提案すら、下請けには許されない空気がある。この「空気」という得体の知れないものがクセモノだ。それは日本社会では最も重視されるものだから、はっきりと契約等で明示されていないことであるほど、それに従わなければいけないのだ。

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この仕事での僕の立場は「孫請け」に当たる。下流も下流、とにかく上流には一切逆らわないことにした。後の体験ではっきりするが、この業界の一部には差別的なヒエラルキーが存在している。そんな時、我々孫請け者は、何を言われても微笑を浮かべて「かしこまりました」「申し訳ありません」と、努めて機械的な態度で自己防衛する。ね、非建設的な関係でしょう?それが、今の階級社会化したこの国のブルーカラーの現実だ。

断っておくが、僕は本業ではこうした日本的なルールに逆らい、「上」も「下」もなく対等な立場で仕事を進めているつもりだ。それが理由で干されるのならば、それでいい。あらゆる努力は良いものを作る方向に向くべきである。それ以外の方向性はどう取り繕っても妥協でしかない。僕がロボットに徹するのは、この回送の仕事はあくまで「副業」であり、「本業」の上記のようなポリシーを守るための保険だからだ。そしてまた、その姿勢に徹することが、この副業を本業に反映し、昇華するための正解だと判断した。

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さて、回送の移動手段は原則として、車なら<下道>、電車なら<鈍行>である。高速と新幹線・特急には乗れない(例外は少なくないが)。正確には乗れないのではなく、「乗ってもいいけど、高速代や特急料金は出しませんよ」という経費システムなのだ。そして、仮に自腹で「投資」したら完全に赤字だ。つまりは、その程度の報酬しか出ないのだ。もちろん、これは普通の感覚では「大変」であり、理不尽である。しかし、僕のような物好きには下道&鈍行は良い面の方が多い。それについては追々語っていこう。

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事件が起きたのは上の写真を撮った後のことである。人生初の引取のため、レンタカーの営業所の最寄り駅を降りて歩き始めた時のこと。「ポロリ、ガシャン!」。矛盾する言い方だが、どんなに慣れているつもりでも慣れないことをするものではない。<写真撮影><初めての場所を探して移動><車の運転>。この仕事の各パーツは、どれもそれなりに実績と能力に自信のあることばかりだ。だが、これが組み合わさると勝手が違ってくる。いや、「慣れている」という慢心があったのかもしれない。

「レンタカーの回送業務」と「道すがらの街頭スナップ撮影」。この2つを両立するために、僕は伝票や着替えなどの「回送用品」をデイパック的なリュックに、カメラ(NEX-7)を首から下げ、交換レンズ2本ほか写真用品を普段は犬の散歩用に使っている小型のショルダーバッグに入れるスタイルを取った。即ち、背中にリュックを背負い、首からカメラを下げ、ショルダーバッグを斜めがけにする。ただし、営業所の人の前ではカメラをリュックの中に隠す。

このスタイルが「不慣れ」ゆえに確立しきれていなかったのだ。荷物の量が少し多すぎてカメラを入れるとリュックがキツキツだったし、初めて使ったそのリュックの正しい閉め方も分かっていなかった。カメラの重量で上蓋のジッパーが自然に開き、一番上に入っていたカメラが落下したのだ。不幸中の幸いというべきか、壊れたのは液晶部分だけで、ミラーレスカメラとはいえビューファインダー付のNEX-7なので、一応は撮影を続行できた。

しかし、修理代はこの2泊3日の稼働(この仕事はシフトが完全に自由で、半日程度で終わりにしてもいいし、車中泊をしながら何日も連続して続けてもいい。この一連の「回送員として動いている期間」を業界用語で「稼働」という)の稼ぎを上回ってしまうかもなあ・・・そうしたら、なんのために働いてるのか全然分からんなあ・・・

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しかし、ここで激しく落ち込んで自ら出鼻をくじいているようでは元も子もない。回送車でいきなり事故を起こしたわけではないのだ。そう、<お客様>のものを壊したのではない。あくまで業務外の私物の話である。しかも、修理にはヨドバシのアフターサービスポイントが丸々使えるではないか(どっちみち、NEX-7はそろそろOHしたいと思っていたのだ)。しばらく預けることになるだろうが、経済的な実害はなし!

というようなことを、少し裏道を歩いて(ビューファインダーのみで)写真を撮ったり牛丼を食べたりしながら考え、心を落ち着かせてから営業所に向かった。

そんなこんなで、さて、ついに初の引取りである。営業所の人とのやりとりは実にスムーズに進んだ。「失礼します!回送業者の〇〇です。◯◯ナンバーのハイエース、引取りに参りました」「ご苦労様です。2P分かりますか?」「初めてなので分かりません」。実に実に、マニュアル通りの正しいやりとりである。営業所の人も聞いていたような差別的な態度では一切なく、さすがヨコハマ、都会的でスマートだ。

2Pとは営業所とは別に車両を停めてある民間の月極駐車場のことで、都市部では営業所の敷地が狭いためたいてい2P、3Pがある。防犯上場所は秘密であるので、積極的にこちらから聞いてはいけない(回送業者のデータベースをスマホで参照しながら探す)のだが、ここではそういう請負業者目線の過度な気遣いをよそに、手際よく地図が用意されていた。そして、地図通りに歩いたら、徒歩10分弱でなんなく目的の車を発見。しかし・・・

車検証がない!納車時にスマホで登録年月日や車体番号を打ち込んで報告しなければいけないのだが、その情報を得るのに必要な車検証がないのだ。それに、万が一警察にバレたら、車検証不携帯で厳密には違反である。しょっぱなから真っ暗い中、ボンネットを開けたり右往左往するハメになったのであった。

結局、この車は車検に出したばかりで車検証がまだ用意されていないことが判明。代わりに『保安基準適合標章』という仮の車検証がフロントガラスに貼られていたのでそれが分かった。そういうシステムがあること自体を知らなかったので勉強になったのだが、しょっぱなからイレギュラーはちょっと焦りました(いや、実は細かいハプニング続きの人生なのでそうでもなかったが)。

ということで、エンジンONで1コクを北上。目指すは房総半島の最先端、館山です。

【アドリブ旅行01】横浜から巡り巡って佐久平=part2に続く

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【今回使用機材】

 

【関連グッズ】

    

by hoq2 | 2014-01-26 13:45 | 写真(アドリブ旅行) | Trackback | Comments(0)

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