【『WAN』連載】 「絆」 第8回/イタリアン・グレーハウンド「喜びと楽しみを共有するふたりの世界」
2013年 06月 17日
以前、このブログで犬雑誌の『WAN』(隔月刊)で新連載を始めると告知させていただきました(『WAN』 新連載「絆」)。その号の特集犬種と飼い主さんの絆の物語です。同誌では3本目の連載になります。第1回が2012年5月号。最新号の2013年7月号は8回目で、イタリアン・グレーハウンドの特集です。
今回ご登場いただいたのは、第1回の川原志津香さんと同じく国際経験豊富な女性。今年3歳になったロンくん(オス)と暮らす小林恵さんは、アメリカやヨーロッパに留学した後、マーシャル諸島共和国に長年暮らし、現在は東京のEU代表部で働く国際派のキャリアウーマンです。
小林さんはロンとオビディエンス、ディスク、コーシングの大会に積極的に参加しています。実を言うと、僕はこうした競技やドッグショーに参加する一部の人たちにはあまりいい印象を持っていません。「勝つために犬を替えた」「すぐ骨折する。ありゃ駄目だ」というような言葉を面と向かって聞いたことが少なからずあります。犬を自分の名誉のための道具にしているような人も中にはいるのだと私は感じています。もちろん、こうした競技は犬も人一倍楽しんでいることが多いので、それ自体は素晴らしいものだと思います。しかし、人間の欲が上回ってしまうのは悲劇です。
その点、小林さんの場合は目的がしっかりしています。ロンが楽しめることを探した結果行き着いたのがディスクでした。その後、絆をより深めればロンはもっと楽しくなり、自分もそれを共有できるとオビディエンスを始めたのです。そして、コーシング大会に参加するようになった理由が特に素晴らしい。
「サイトハウンドの本能を発揮して思い切り走ることのできる機会を作ってあげたい」
小林さんは、常に犬の目線に立ってふたりの人生を考えています。「ベタベタしているから信頼関係があるということではないと思います。なついてくれるのは嬉しいですが、自分に何かあって人に貰われたとしても、誰にでも好かれる犬になってほしい。そして、走ったり遊んだり、色々なものの臭いをかいだり、犬として楽しんで生きてほしい。その中で一緒にできることを見つけながら、喜びを共有したいと思っています」。僕はこの言葉にすごく共感し、感銘を受けました。
小林さんのこの視点は、人と犬が対等であるという認識が前提になっていると思います。生物としての力関係で言えば人間は地球上で最も強い存在ですから、平等ではないかもしれません。しかし、強い者であろうと弱い者であろうと、万物は対等である。私はそう思います。海外経験が豊富な小林さんのことですから、そういうことが意識せずとも自然に身についているのではないでしょうか。僕も15歳まで日本と海外を行ったり来たりしていましたから、差別を受けたり差別をしてしまったりという経験があります。その悲しみや後悔の念などから学ぶことは多く、違いを超えた対等な関係というものを理解しているつもりです。
「犬が好きな人には悪い人はいない」と言いますが、小林さんとロンくんのような関係が築けているのならば、その通りだと思います。だって、人と犬、「種」が違う者同士が対等なんですよ。同じ人間同士でさえ、やれ差別だ、やれ平等だとギクシャクした社会です。対等であることと平等であることは違います。そこを消化しきれないまま突き進んでしまうと、差別や逆差別が生まれるのだと私は思います。
男と女、日本人と外国人、健常者と障害者(あえて障碍者・障がい者とは書きません)、人と動物、雇用主と雇われ人、金持ちと貧乏人。違うのが当たり前です。そして、自然の摂理や人類史の積み重ねの中で各々の力関係には差があります。宇宙は平等ではないということを淡々とした事実として受け入れなければいけません。平等が実現するのは、自分が神になった時のみです。それを踏まえたうえで、万物は対等であるとせめて過半数の人が実感できていれば、色々な悲しみや怒りがなくなっていくのではないでしょうか。
『WAN』7月号は好評発売中です。イタグレ好きな人、小林さんとロンくんのことをもっと知りたい人は是非、手にとってみてください。