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モノクロ街頭スナップへの回帰 (習作1=長野県茅野市湯川)

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Leica M6TTL Carl Zeiss Biogon 28mm 2.8 ZM Tri-X

2007年にベルリン日独センターで『Berlin + Tokyo』の個展を開いたのを区切りに、フィルムへの未練を断ち切り、完全デジタル移行した・・・はずだった。

「過去に置いてきたものを拾いに行く余裕ができた」と言えばいいだろうか。長野県蓼科での山暮らしを始めて5年が経ち、年齢も重ねてくると、色々なことが少しずつ落ち着いてくる。そんなタイミングでアマチュアカメラマンである義理の母が、機材整理でライカをくれた。以前に同じくいただいたニコンFM2も有効活用しようと、程度のあまり良くない50mm1.4を安く手に入れて一度撮影し、その後オーバーホールもしていた。そんなふうに無意識的になんとなく、銀塩を再開する準備はしていたのだ。

移住後にデジタルで少しずつ撮っていたNagano Snapshotもある程度着地点が見えてきて、そろそろフォトブックか何かにまとめようと思っている。2007年までは白黒フィルムメインで「都会の通行人が絡む街頭スナップ」を撮ってきたが、デジタルのNagano Snapshotでは、2010年代の寂れきった日本の地方を舞台に「人のいない風景」を撮ってきた。そこでは、「人の動き」をはじめとする偶然性重視の都会のスナップとは違う形で、自分なりに空気感や構図で見せる写真を身につけることができたと思う。そして、次のステップとして両者を融合した新境地を探そうというのが、今の段階だ。そこで「モノクロフィルムへの回帰」が出てきたというわけだ。

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Leica M6TTL Carl Zeiss Biogon 28mm 2.8 ZM Tri-X

デジタルネイティブの若い人や写真に詳しくない人のために解説しておくと、「白黒で撮る」というのは別にレトロ趣味とかそういうのではない。カラーフィルムが普及した後も、いわゆる芸術写真の分野ではむしろ白黒がスタンダードだったのだ。一つには、お手本にしていた先人たちの1960年代くらいまでの素晴らしい作品のほとんどが白黒写真であったこと。そして、実践するにあたってはこちらの方が大事なのだが、写真の本質を学ぶには当然、撮影・現像・焼付をセットで学ぶ必要がある。白黒写真はカラーに比べて自家現像が容易であり、また、ベーシックな技術が盛り込まれているために、シリアスに写真を始めようとするなら、モノクロの自家現像は必ず通る道であった。僕が高校写真部で写真を始めた1980年代は、既に一般的にはカラーフィルムが当たり前の時代だったが、高校・大学の写真部や写真学生だけでなく、芸術写真の作家の多くもまだ白黒がメインであった。一方、プロの職業カメラマンはカラーポジが標準で、僕が後に就職した新聞社ではモノクロプリントからカラーネガ・フィルムスキャンへの移行期だったのだが、職業カメラマンの世界と芸術写真ではちょっと事情が異なる。しかし、デジタル化以降はプロも一般人も作家も、デジタルに一本化され現在に至る。

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Leica M6TTL Carl Zeiss Biogon 28mm 2.8 ZM Tri-X

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Leica M6TTL Carl Zeiss Biogon 28mm 2.8 ZM Tri-X

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Leica M6TTL Carl Zeiss Biogon 28mm 2.8 ZM Tri-X

僕が白黒を集中的に撮っていた時代は、大きく分けて3つの時期だ。①高校〜大学の写真部時代②新聞社の地方記者時代③新聞社の写真部をやめてフリーのカメラマン/ライターになるまでの移行期の2、3年。①と③は、現像からプリントまで自分でやり、②はカラーネガのラボ出しとの半々くらいだっただろうか。③の最後の方は自家現像・フィルムスキャン・インクジェットプリントだった。その後、完全にデジタル移行した。現在も仕事は100%デジタルのカラー入稿である。

今回はプライベートな作品撮りに限っての③からの約10年ぶりの復帰だ。もちろん暗室はやめているし、引き伸ばし機や現像タンクなどの用品も何度か引っ越しを繰り返しているうちに全て処分してしまった。なので、いまさらプリントまで再開す時間も予算もなく、「フィルム現像まではアナログ、フィルムスキャン以降はデジタル」という、最後期のスタイルへの復帰である。ともかく、復帰にあたって、フィルム現像用品を全てヨドバシカメラと100均で買い直したのだが、その後さらに昔の写真部仲間が当時ものの現像セットを進呈してくれた。結果、現像用品に関してはかなり充実した状態になった。

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Nikon NewFM2 Ai Nikkor 50mm 1.4 Tri-X

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Leica M6TTL Carl Zeiss Biogon 28mm 2.8 ZM Tri-X

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Nikon NewFM2 Ai Nikkor 50mm 1.4 Tri-X

さて、なぜモノクロフィルムでなければいけないのか。デジタル移行後も折にふれて街頭スナップを撮ってきたが、自分自身と時代の変化により、「人」が撮りにくくなってきた中で、被写体に依存する「具体的な何か」よりも、「自分の内面を投影した心象風景」を撮ることが多くなってきたことが大きい。言い方を変えれば、純粋にプライベートな作品撮りに関しては、写っているものが面白いとか珍しいという類いの写真ではないので、カラーで分かりやすく見せたり、状況を「説明する」、あるいは何かを「提示する」必要はない。それよりも、その場で感じた空気感や俳句的な静かな心の動きを写し取ることをが主題となっている。そして、これまでの積み重ねの結果、白黒の方が外的な要素が排除され、撮影者の内面的な要素がより純粋に画面に定着されることを確信しつつある。

当然、デジタルでもモノクロ表現はできるのだが、結局自分はそこに向かうことはなかった。色々な要因があると思うが、フィルムだと①粒子で表現することによってあいまいさが良い塩梅で残る②撮影枚数が限られるため、じっくり大事に撮ることを強いられる。それが今自分が目指しているものに合っている。 ③今の技術と力量を活かせば、途中で止まってしまった道のもっと先に進めるのではないか?――と思うのだ。

デジタル写真やカラー写真の否定ではないということは、強調しておきたい。これからも自分の撮影のメインは公私共にあくまでデジタル写真である。

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Nikon NewFM2 Ai Nikkor 50mm 1.4 Tri-X

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Leica M6TTL Carl Zeiss Biogon 28mm 2.8 ZM Tri-X

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Leica M6TTL Carl Zeiss Biogon 28mm 2.8 ZM Tri-X

そんなことで、倍近い値段になっていてびっくりのTri-Xを買い、ライカとニコンを手に自宅から一番近い集落でリハビリ撮影を行った。現像からスキャンまでのプロセスを含め、まずはカンを取り戻し、色々と忘れていることを思い出さなければならない。技術的な所では、現像液の選択をどうするかとか。結果も大事だが、フィルムが過去の遺物となった今の現況では、無理なく続けられるように工夫することも大事だ。単純に昔やっていたことをそのまま再開するという話でもないのだ。

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Leica M6TTL Carl Zeiss Biogon 28mm 2.8 ZM Tri-X

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Leica M6TTL Carl Zeiss Biogon 28mm 2.8 ZM Tri-X

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Leica M6TTL Carl Zeiss Biogon 28mm 2.8 ZM Tri-X

実践してみて分かったのは、デジタルのカラー写真では画面に入れるのを避けていた電柱などの気分が萎えるような異物が全く気にならなくなっていること。そして、写っているもの自体はつまらない漠然とした光景であっても、フィルムであれば「シャッターを押す瞬間の気持ちよさ」を重視してじっくり静かに撮れることだ。学生時代に追求していたのは、まさに「シャッターを押す瞬間の気持ちよさ」だったはずなんだけど、いつの間にかその感覚を忘れていた。あとは、当時の未熟さが「成熟」に置き換わって作品の深みが増せばいいのだが。

撮影回数は月に3回まで、各回の撮影本数は4本までというあたりが、持続するには良いところだと思う。それ以上撮って未現像フィルムがたまったりすると、途中で挫折してしまうだろう。若いうちはいいが、いまは楽することも進歩のために必要だ。そこを考えて、現像液の保管などで気を使わないように、液体タイプのT-Max現像液を使い捨ての1:7希釈にしたりと、結果+持続性のバランスを探っている。

この後、もう1回都会(横浜・鶴見)でリハビリ撮影したのだが、フィルムと現像関係の結論はこんな感じ。

・今はとにかくフィルムが高い!学生時代の写真仲間から長尺フィルムのローダーをもらったので、100ft(30.5m)のロールで購入することに。しかし、Tri-Xのロールはバカ高(3万5千円とか!)なので、その半額程度で同等品のイルフォードHP5+(ISO400)を常用フィルムとする。ISOでフィルムを使い分けるのも今では贅沢なので、他のフィルムは使わずNDフィルターや増感現像で対応する。
・現像液は、T-MAXデベロッパーを1:7希釈で。一本使いきったらID-11(D-76)の1:1希釈を試し、良い方を常用にする。いずれにしても、管理を楽にするため貯蔵はせず、使い捨てとする。

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Leica M6TTL Carl Zeiss Biogon 28mm 2.8 ZM Tri-X

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Leica M6TTL Carl Zeiss Biogon 28mm 2.8 ZM Tri-X

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Leica M6TTL Carl Zeiss Biogon 28mm 2.8 ZM Tri-X

フィルム現像から先はデジタル処理となるわけだが、デジタル時代に合った仕上がりも追求したいと思っている。今回は、銀塩的な豊かなトーンとデジタル的なシャープネスを両立しつつ、フィルムであることの意味を高めるために、あえて粒子がくっきりと目立つ処理をした。色々な方法があるが、今回は高めの希釈率による現像と、スキャン時にシャープをかける方法を使った。悪くないので、しばらくこれでいこうと思う。

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Nikon NewFM2 Ai Nikkor 50mm 1.4 Tri-X

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Leica M6TTL Carl Zeiss Biogon 28mm 2.8 ZM Tri-X

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Leica M6TTL Carl Zeiss Biogon 28mm 2.8 ZM Tri-X

つい、気分まで写真学生に戻ってしまって理屈っぽいことばかり書いてしまったが、とにかく楽しい。デジタル的なものはなんでも否定するジジイは大嫌いだが、やっぱりフィルムを詰めたり、ハサミで切ったりというアナログな作業は、具体的かつフィジカルで身体的にも心地よい。

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Leica M6TTL Carl Zeiss Biogon 28mm 2.8 ZM Tri-X

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Leica M6TTL Carl Zeiss Biogon 28mm 2.8 ZM Tri-X

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Nikon NewFM2 Ai Nikkor 50mm 1.4 Tri-X

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Nikon NewFM2 Ai Nikkor 50mm 1.4 Tri-X

【使用機材】

・ライカM6TTL

    
by hoq2 | 2016-05-02 01:57 | 写真(Street Snap)

(フォトジャーナリスト・内村コースケ)写真と犬を愛するフォトジャーナリストによる写真と犬の話。写真は真実の写し鏡ではなく、写像である。だからこそ面白い。


by hoq2
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