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イワナの燻製を作る

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カメラマンとか物書きのような仕事をしていると、多趣味なタイプに見られることが多い。しかし、写真という最大の趣味が高じて仕事に結びついている(というか、仕事でも趣味でもない「ライフワーク」な扱い)なので、他に回せるエネルギーはそれほど余っていない。だから、趣味も仕事もしっかりやっている人を見ていると、ものすごいバイタリティだなあと思うのである。

いや、仕事に関係なく好きなものはたくさんある。濃い順に犬、釣り、車、プラモ、etc。しかし、どれも自分では趣味という感じはしない。犬は伴侶であって趣味ではないし、車は仕事に必要+@で趣味性の高い車に乗っているだけで、自分でチューニングしたりとかラリーやるとかなんかの会に入るとかそういうのはしません。プラモは5年に1回くらい凝る周期があるが素組と塗装のみ。

いやあ、なんか採算度外視で道具に凝ったり毎週末いそいそと出かけるみたいのは、性に合わないのです。かと言ってライト層とも違う。うーん、人に分かるように説明できない。

その中で釣りは多分、費やしている時間ではヘビーな趣味人並かもしれない。東京にいる時は東京湾周辺で、長野にいる時は渓流と、結構日常的にやっている。しかし、遠くの有名な釣りスポットに行くとか、船を出すとかはしません。日常生活の中に釣り場があるので、そこに魚がいるから釣るという感じ。だから、道具も適当なら、魚種にこだわったりもなし。そこにいる釣り易くて「食える」魚を釣るのみである。「漁」ではないが、ルアーやフライでキャッチ・アンド・リリースという「趣味」でもない。東京湾のシーバスですらエサ釣りという変人です。

というわけで、長野(蓼科)の家の目の前には小さな沢があります。そこにはイワナとヤマメがいます。食料として優秀であり、釣るのも難しくない(行けば何かしら釣れる)。駆け引きあり、美しい自然あり、名もない沢を探索する冒険要素あり、数釣りも大物狙いも両方イケる。最高の釣りだと思う。といっても僕の場合、生活圏内にある沢にしか行かないのだが・・・。

ただし、ライト層と違うのは、必ず釣果を持ち帰ることを義務とし、しっかり食料として活かすことを目標にしていることだ。で、去年からやっているのが「燻製」。これは味は間違いなく、塩焼きよりも食べでがあり、調理も楽しい。程よく簡単・大変でそこが良い。燻製を趣味にしている人も多く、そういう人は調理から道具まで凝っている。僕は例によって「俺流」なアバウトさで。

と、今回は「俺流」に燻製ができるまでを追っていこう。

(1)獲物を釣る

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蓼科エリアで釣れるのは、概ね標高1200以上が天然or放流定着イワナ、それより低い所がヤマメ(ほとんどが放流アマゴ)、放流ニジマスといったところです。大門川など名の知れたスポットはありますが、僕が行くのはたいていわざわざ都会から行く価値があるような川ではありません。住んでいる別荘地の生活圏内で、しかも、本格的な趣味の釣り人が来ないような所。そこに大物が潜んでいるとかそういうことではなく、先に書いたような僕の嗜好から、渓流釣りも趣味というより生活の一部として楽しみたいからです。

ああ、答えが出た。僕がやりたいことって、「趣味」でも」仕事」でもなくて「生活の一部として楽しむ」ということなのだなあ。

あと、蓼科に渓流釣り目的のみで来るのはあまりお勧めしません。山岳リゾートという特性上、源流部がスキー場であったりゴルフ場であったりペンション街であったりと、最下流は別として「源流に近づけば近づくほど開けている」という特殊な環境です。型も、よくて尺といったところですよ。よって、東京から近い山梨方面の方がかえって渓相・水質、魚影、いずれも良い川が多いのです。とはいえ、家の目の前に天然イワナが泳ぐ沢があるというのは、生活者にとっては非常に贅沢な環境だとは言えるかもしれません。

何はともあれ、今回の獲物はコイツ。年に一回は必ず尺が出る滝壺で日没直前にゲット。斑点が少なく、腹のオレンジが鮮やかなヤマトイワナだ。中部山岳地帯の固有種である。

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釣り方は、4~5mの振り出し竿に1.5mくらいの仕掛けの「提灯釣り」。薮沢なので長い仕掛けは使えず、竿を畳みながら強引に取り込む。なので、バラシのリスクも高く結構難しいのですよ。この釣り方でしかも沢登り一歩手前の厳しい条件なので道具の消耗も激しく、安物の竿を心置きなく使うのが正解。餌は市販のミミズオンリー。現場で川虫を捕まえるとかいろいろあるが、結局これが合理的・経済的かつオールマイティなのである。

(2)下ごしらえ

イワナやヤマメは鱗がないので楽。内臓とエラを取ればおしまい。ただし、鱗がない分、ヌルヌルを取るのが大変だ。ヌルヌルが生臭さの元凶であり、それをもって川魚を嫌う人が多いのではと思う。しかし、塩をして乾燥させるという工程がある燻製ならば、その過程でヌルミは取れる。ちなみに、自分は面倒なのでやらないが、塩焼きを本当においしく仕上げたければ塩水で洗うという一手間をした方が良いということだ。

今回は上の尺イワナとその前に釣った15~20cm級3匹(ヤマメ1匹含む)も燻製に。1匹は塩加減チェックを兼ねて塩焼きにする。

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おろしたところ。

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こちらは塩をしたあと。あとで塩抜きをするので、かなり多めの塩とクレージーソルトなどで味付けしている。マニアの人は、この塩を直接すり込む「ふり塩」ではなく、「ソミュール液」という高濃度の食塩水につける「たて塩」でやる場合がほとんどだ。塩が均一に染みるのと、味付けのバリエーションがつけやすいからだということだが、半端じゃない量の塩を消費し、それをよしとするという非常に「趣味的」なやり方だ。一度はやってみたいが、大量に塩を使う余裕があるタイミングがまだ訪れていない。

とにかく、この状態で冷蔵庫に一晩置く。

(3)塩抜き・風乾

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これもねえ。これまでは、本なんかに書いてあるこの工程は省いて、ちょうど良い塩加減で一晩冷蔵庫乾燥させてそのまま燻煙してた。ただ、まあ一度強く塩漬け→塩抜きの方が、保存性や乾燥具合、味も良くなるってんで、やってみました。1時間やって、1匹焼いたらちょうどいい塩梅だったので、もう1時間追加で計2時間。塩焼きでちょうどよい=乾燥・濃縮される燻製ではしょっぱいから、この段階では薄味くらいでいい。

で、食べた感想を先に言うと、塩抜きしなかったものの方が一口目はおいしかったけど、今回の方が最後までおいしかった。カワゴエシェフの料理のように、味付けが濃い目だとなんでも一口目は美味しいので、テレビとかだとごまかせるわけですね。ちょうどいい塩梅というのは、一口目が「ん?薄味?」ってくらいで良いのだと、今回気づいた。

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こういうふうに陰干しする。冷蔵庫内でラップかけずに乾燥する方法もあるが、解説書には「科学的根拠はないが、野外で干した方が確実においしくなるったら美味しいのだ」というような美味しんぼ的感情論が書いてあった。僕はそういうのを信じない方だが、まあせっかく涼しい高原の風通しの良い所に住んでいるので、オカルトもアリかと。確かにおいしくなりそうな絵ではある。

(4) 燻煙

いよいよ燻煙である。どうしても、この作業は仕事や犬の散歩とかしていると日没後になってしまう。

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まずは網の上で小さいイワナとヤマメを燻す。スーパーで買ってきたサーモンとロースハムも一緒に。「魚の臭いがつくから肉は別に」と本には書いてあるが気にしない(実際、味は問題なしっつーか、この肉が一番うまかった)。

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スモーカーは、外国製のしっかりしたアウトドア用品から手作りまでさまざまだが、例によって一番日常的なホームセンターで2000円くらいで売ってるものを使用。熱源もカセットコンロという生活の中にあるもので。

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スモーカーの底に皿に入ったスモークチップ(今回はヒッコリー)を置き、カセットコンロで熱すると煙が出る。

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完成。一晩以上寝かした方がおいしいが、いつも半分くらいはすぐに食べてしまう。

尺イワナは網からはみ出るので、吊り下げ式で一匹で。

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燻煙時間はいつもだいたい一時間。こうなるともう前衛オブジェである。

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当然、バカみたいにうまいわけだが、米の飯のおかずとしては難しい。ケンタッキーを口内調味でオカズにできる人はいいかもしれないが、僕にはそれは到底ムリだ。パン(orフライドポテト)とスープと温野菜と燻製というような組み合わせならならいける。あるいは、やはり酒のサカナということになる。僕はもともと飲めない体質だが、最近はそうでもなくなり、日本酒を飲むようになった。酒を口に含むと味がリセットされて、ツマミの味が引き立つんだね。この年になって初めて酒とツマミの意味を知りました。ビールのおいしさはまだ分からない。

次回はソミュールかな。でも、いかにも「趣味」な領域からはやっぱり一歩引いてしまうか。


    
  
by hoq2 | 2014-08-08 02:51 | 釣り

(フォトジャーナリスト・内村コースケ)写真と犬を愛するフォトジャーナリストによる写真と犬の話。写真は真実の写し鏡ではなく、写像である。だからこそ面白い。


by hoq2
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